私は全くの霊感ゼロ、その手のものは何も見えないし感じません。

Posted on 9月 29, 2016

流れを切って投下。

私は全くの霊感ゼロ、その手のものは何も見えないし感じません。
それでも取り敢えずはヤバ気なモノや場所には触らない、近づかない、と、
最低限の自衛はしているつもりです。何らかの理由があるからタブーになるのでしょうし。

家族では母が同じく見えない人で、更にこの人、性格が超アバウト。
趣味で生け花というかアートフラワーというか、花のデコレートをしているのですが、
石をあしらうのがこのごろのマイブームらしい。
で、家族が散々止めろ店で買えと言って聞かせるにも関わらず、
「これ素敵でしょー」と石を拾ってきてしまうのです。河原の石を。
知識として知っている私と妹、経験として知っている父は
そのたびごとにちょっと疲れることになるのですが、先週末はマジ洒落なりませんでした。

両手のひらに乗るくらいのその石を見せられた瞬間、あ、ヤバいと思いました。
だって表面に黒い蛇の模様がのたくっているのです。
「おかーさま、これは一体なんですか」
緊張のあまり無意味に敬語です。
「川で拾ってきたの。綺麗な模様でしょ」
母、嬉しそうです。そりゃそうでしょう。単純に模様と見るならば綺麗だもん。
でもただでさえ河原の石はとても危険、更に蛇の模様…何が入っているのか…。
私では鑑定のしようがないので、「うっすらとわかる人」である妹を呼びました。
部屋に入ったとたんに妹絶叫、悲鳴に呼ばれて父登場。
「どうした…お前なに拾ってきた!!」
父は見えるどころか、拝み屋家系の出です。(職業は元サラリーマン、現在はリタイア)
それも「女なら本家が(養女に)取ってる」と言われた程の逸材だったりします。
こういう人でこういう家系にどうして全くの一般普通人の母が嫁いだのか
今でも議論になるところですが、逆に言うと母のようなアバウトかつ楽天的な人でなければ
父の妻は務まらないんじゃないか…という人です。

この後は凄まじかった。いえ、除霊などではなく父と母の議論が。
捨てる捨てないで激しく言い争う両親。響きが非常に乱暴な方言を駆使するので、
傍で聞いているとまるっきりDQNの喧嘩です。我が家にとってはいつものことですが。
あーあ…と眺めていたのですが、ふと見ると妹が半泣き状態。
そんなに怖いものなのかと訊くとそうだと言う。
妹の力は、先に書いたとおりうっすら分かる程度のものです。
「あんた、何見えてんの」
「蛇がお母さんの首に巻き付いて、口から入ろうとしてる」
それが物凄くはっきり見えるらしい。
「入っちゃったらどうなるの?」
「わかんない。けど嫌だ怖い」
それはそうだ。妹と目と目で通じ合い議論に参戦、三人がかりで母から石を奪うことに成功しました。
石は父が厳重に保管し、本家で母のお祓いとセットで丁重に処分したとのことです。
後日、父に妹が見たことを話し、蛇が入ったらどうなるのかを訊きました。
父は一言、「食われる」と。
詳細は幾ら食い下がっても教えてくれませんでした。

なにが嫌って、母、また同じことをしそうで…石が欲しいなら店で買って下さいお母さん…

数年前、私の先輩のFさんから聞いた話です

Posted on 9月 28, 2016

数年前、私の先輩のFさんから聞いた話です。
Fさんが、自分ちのすぐ近所に住んでいる従兄弟の家へ行った時のこと。その日、従兄弟はいつになく沈んだ顔をしていたそうです。
上がって飯でも食べて行けという話になり、そのままずるずるとお酒を飲み始めた頃、従兄弟がぽつりと話し始めました。
「一昨日、すげぇのが来たんだよ」
その夜は真夏にもかかわらず、わりあい涼しかったので、今日はゆっくり眠れるだろうと思っていたところ、なかなか寝付けなかったんだそうです。
そのうち、遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえたそうです。もちろん近所に赤ん坊のいる家などありません。次第に赤ん坊の声は近づいてきます。やばいと感じたものの、逃げることはできませんでした。
やがて、泣き声に混じって、ザッ、ザッ、っと畳の上を這うような音まで聞こえはじめました。赤ん坊の声を右耳の側で聞いたその時、仰向けに寝ていた従兄弟の胸の上にずしりとした重みが乗りかかりました。
怖くて目を開けることもできずにじっとしていると、すぐにその赤ん坊は胸から降り、通り過ぎて行きました。その間もずっと泣き声は続いていたそうです。
Fさんは、一昨日通過したものが昨日は戻って来ていないのだからいいじゃないかと従兄弟をなだめて、その夜は終わりました。――その夜は。
Fさんはまさか、従兄弟が聞いたそれを数日後に自分も聞くという羽目に陥るとは思っていませんでしたから。
従兄弟の部屋とFさんの部屋は一直線上にあり、何日かがかりで這って来たようです。
その赤ん坊はFさんの家も通過して、どこかへ去ったらしいです。どこへ行ったのかは、もちろん誰も知りません。

大学に入学して3ヶ月ほど経った頃、僕は大型スーパーでバイトを始めた

Posted on 9月 27, 2016

大学に入学して3ヶ月ほど経った頃、僕は大型スーパーでバイトを始めた。23時の閉店まで入っている遅番は、仕事が終わったら店の駐車場を見回りして帰るというのがルールだった。
その日遅番だった僕は、駐車場の見回りが終わって帰宅しようとしていた。
同じく遅番で入っていた年配の女性に声をかけられた。
「駐車場を見てきたんだよね。大丈夫だった?」
女性が不安そうな顔をしていたので、
「大丈夫でしたよ。駐車場で何かあったんですか?」と聞いた。
すると、その女性は小さな声で僕に言った。
「駐車場でね、前に飛び降り自殺した人がいるのよ。出るってウワサもあるから…」
「自殺ですか…怖いですね」
気味悪く思ったが、どうしようもできない話だ。僕は特に気にしなかった。
バイトを始めて2ヶ月ほど経った頃、駐車場へ見回りに行くと、誰かの視線を感じた。しかし、駐車場には誰もいない。気のせいだと思って考えないようにした。
そして3週間前のことだ。この駐車場から女子高生が飛び降り自殺をした。失恋が原因らしい。頭から落ちて即死だったと聞いた。
また自殺か…ほかの場所にしてくれ…と思いながら、僕はバイトを続けていた。女子高生が飛び降りてから、特に何もなく1週間が過ぎた。
いつものように駐車場の見回りをしていたときのことだ。1階から3階までの見回りが終わり、残りは4階のみ。
その上の屋上は、女子高生が飛び降りてから立ち入り禁止になっていた。
4階の見回りを終えて帰ろうとしたとき、ふと外を見た。そのとき目を疑った。セーラー服を着た女の子が落ちていく姿を見たのだ。
また自殺なのか!?
僕は急いで4階から下を見た。
しかし、辺りは静かで人の姿もない。
自分が考えすぎて幻覚を見たのだと思い、僕は何事もなかったように急いで帰ることにした。
次の日バイトを休もうと思ったが、代わりはいないし無断欠勤するわけにもいかず、仕方なく出勤した。
その日の駐車場の見回りは、なるべく窓のほうを見ないようにした。3階までの見回りを終えて4階に来たとき…なぜか足が窓のほうへ向かってしまう。心の奥では気になって仕方がないのだ。
柵まで来たとき、僕は見てはいけないものを見てしまった。無表情な顔をした逆さまの女の子を見たのだ…。
僕は声にならない叫びを上げながら、走って逃げた。
「これはもう気のせいじゃない!」
その日帰宅すると、食事も喉を通らずにすぐベッドに入った。明日もバイトだと思うと怖くて仕方がない。しかし、理由を言っても笑われるだけな気がして、次の日もバイトに出かけた。
とにかく今日は外を見ないようにしよう。いつものように駐車場の見回りをして4階に着いた。
なぜか4階にたどり着くと、勝手に柵のほうに向かってしまう。これは自殺した女子高生の力なのか。もう見たくない。しかし瞼を閉じることもできない。この日もまた見てしまった…。
しかし、昨日と違って無表情じゃない。女の子が少し微笑んでいるように見えた。
その日以来、バイトへ行く日は必ず女の子を見るようになった。それも少しずつ唇の端が持ち上がっているのがわかった。
なぜ少しずつ笑っているのだ?
最後にはどんな表情を見せるのか…。
先週の水曜日のことだった。そういえば、女子高生が自殺した日も水曜日だ。
この日の女の子の顔は完全な笑顔だった。逆さまだったが、その目は僕を見ていた。
僕はすぐに後ろを向いて走って逃げようとした。
そのときだった。
「一緒にきて…」
ささやくような声が耳のそばで聞こえたのだ。
僕の体は震えていた。逃げなければ僕は女の子に連れて行かれてしまう。気がついたら無我夢中で走っていた。
もう限界だ。僕は次の日にバイトを辞めた。
本当の訳は話さなかった。
しかし、あの笑った顔とささやく声は決して忘れることはない。

幼い日、何てことなく通り過ぎた出来事

Posted on 9月 25, 2016

幼い日、何てことなく通り過ぎた出来事。その記憶。 後になって当時の印象とはまた違う別の意味に気付き、ぞっとする。そんなことがしばしばある。
例えば。小学生の頃、通学に使っていた道は一面田圃の田舎道だった。途中に寂れたマネキン工場があり、あとはそのずっと先に駄菓子屋が一軒。
人家は田圃の向こうに点在するのが見えるだけ。マネキン工場は既に廃工場だったらしく、人が働いている姿を見た記憶が無い。
封鎖された敷地の隅にはバラバラになったマネキンの残骸が積んであり、それが金網越しに見える。その様は面白くもあり、不気味でもあった。
工場の敷地を幅が広い側溝が取り囲んでいて、酷い悪臭を放っている。濁り、ヘドロ状になった水。無造作に捨てられた大量のゴミ。
ある日寄り道をして、いつもは行かない工場の裏手に回ってみた。側溝の惨い有様は道路側をはるかに上回っている。
そこで、ゴミに混じって半身を浮かせた女性のマネキンを見つけた。白く整ったその顔立ちは掃き溜めに鶴といった風情。
引き上げて友達連中が集まる溜まり場に持って行けばヒーローになれる、とは思ったが、水が余りに汚いし場所も遠いので諦めた。
他の奴がヒーローになったら嫌なので、この発見は誰にも教えずじまい。それからしばらくは、その人形の様子を確認しに行くのが日課となった。けれど、哀しいことに彼女が日に日に朽ちて行くのが分かる。
数日も経つと白い肌は薄汚れて変色し、見る影も無くなって来た。やがて、豊かな頭髪は抜け落ちてまばらに。
艶を失った肌は黒くぼこぼこ。鼠に齧られたらしき痕すら見える。諸行無常。最早すっかり興味を失った。
最後に見た時には、水面を覆い尽くすゴミに埋もれて、透明度ゼロの汚水に大部分が沈んでしまっていた。かろうじて水面に覗いた部分も、水を吸って醜く膨らんでいる。それはもう、ただのゴミだった。
けっこう日が過ぎてからもう一度見に行った。けれど、もう、彼女の姿はそこには無かった。やがて小学校を卒業すると、その道を通ることすら無くなった。
高校3年の夏休み。気まぐれに思い出の場所を自転車で回った。あの場所にも行った。景色は一変している。田は潰されて住宅が立ち並び、工場跡は駐車場になっている。
マネキンのことを思いだし、感慨に耽る。ふと気付いた。怖い考え。プラスチックがあんな朽ち方をするだろうか?
既にグロ画像を多数目にしている自分。そこで得た知識ゆえに嫌な考えを振り払えなくなった。あれは人が腐敗して行く過程そのものだったのでは・・・?
本当の事はもう分からない。ただ、懐かしい思い出だったものは、今では見知った人には話せない忌まわしい記憶になっている。

これは今から数年前の話だ。

Posted on 9月 23, 2016

これは今から数年前の話だ。
俺が友達と一緒に、キャンプをしていた時の話である。
キャンプと言っても、小さいテントを持って、近所の山で寝るだけの
遊びの度合いが強いものだ。

簡潔に言うと、そのキャンプ自体は何事も無く終わった。
途中、ランプが消えてしまい割とパニックになったりしたが
月が出ていて暗闇に眼が慣れれば、意外と外がよく見え
その景色を堪能したりした。

今でもその時の景色を覚えてるし、友達と話した内容は覚えている。

問題は家に帰ってからだった。
そのキャンプ体験で、キャンプが気に入ってしまった俺は
友達からテントを借りて、家に帰った。
家出したくなった時、便利だとも思っていた。
だが小さいとはいえ、テントは嵩張る。当然親にばれた。
そこまではよくある話だ。

テントを誰から借りたの、と訪ねられ
友達の名前を答えた俺は、次の瞬間浮かべた親の顔が未だに忘れられない。
「誰、その子?」

それ以来、そのテントの持ち主の事を知っている、という人にあった事が無い。
当時は、半狂乱の状態だったが
今ではきっと脳内友達でも居たんだろうと思いこむ事にしている。
でも未だ覚えている。友達との会話。友達の表情。
あいつは、誰だったんだ?

俺はあまり霊というものを信じているとはいえません

Posted on 9月 22, 2016

俺はあまり霊というものを信じているとはいえません。なぜかというと、見たことがないからです。じゃあこんな所くるなと言われそうですが、興味はあるのです。
それは俺が不思議な体験・・というより、偶然のタイミングに出くわすことが何回かあったからです。
俺が25歳になるまでに、知り合いが何人か亡くなりました。この年でなくなる知り合いと言うことは、少なくとも老衰というパターンはありません。
事故と言うのが一番多いのですが、その原因が事故だろうが、なんだろうが、その後で、
「ひょっとして、あれが原因なんじゃないのか・・・」
といわれる偶然のタイミングに見舞われることが何回かありました。
それを人によってはただの偶然だと無視するし、又ある人は心霊体験だともいうのでしょう。
俺が高校生の頃でした。
バイクに乗って走り回るのが楽しい頃で、毎日ろくに学校にも行かず夜皆で集まって乗り回していました。グループ内では意味もなく、根性試しが何回となく繰り返されます。
それは誰がいかに速く走れるかだったり、壁に向かってぎりぎりまでブレーキを踏まずにいれるかだったり、けんかの強いのはだれなのかだったり・・・その中にはもちろん肝試しもありました。
その時も皆で近くにある有名スポットへ肝試しに行くことになりました。その心霊スポットには銅像が建っていて、それが動いて見えたりすると事故に遭うとかいう、全国どこにでもあるようなスポットでした。
でも実際仲間内でも事故ったという人間もいて、なかなか評判の場所でした。
今思えばバイク乗りたての高校生が、深夜心霊スポットに行ってビビれば事故る確率は高くなるのですが、まあそれなりに信憑性も感じて、事あるごとによく行っていました。
その日は動いているようには見えず、その銅像の前でダラダラしていたのですが、誰かが友人Aに、
「おいA、銅像の膝にヘッチン(でこぴんのようなもの)せえや。」
と言い出しました。
この銅像にはもうひとつ言い伝えが合って、銅像にやったことはみな、自分に返ってくるというものです。
目を触れば目を病気するとか、色々噂がありました。Aはグループの中でも運転は一番にうまかったのですが、心のやさしい奴で、少し怖がりな所がありました。
嫌そうでしたがそこはお約束、これをやらないと「根性ないやつ」と言われてしまいます。Aは仕方なく銅像の膝にヘッチンしました。しかし怖がりながらやったせいか、ヘッチンは軽くかすっただけです。
皆大笑いして「根性なし」を連呼しました。「もっかいやれ」と皆にせっつかれて、Aはもう一度ヘッチンをしました。今度は大きな鈍い音がしました。
指を強く打ちすぎてうなるAを見て、又皆大笑いです。「早速呪われてる。」だの、「もうお返しされてる。」だの言いたい放題です。
「くそーっっ!!」Aはもうやけくそで、銅像の乗っているコンクリートの台に、相撲でぶつかるように抱きつきました。でも別段怖いこともおこらず、帰る事になりました。
俺達はバイクにまたがって、15台くらいで連なって帰りました。たまたま前をAが走っていました。大きな道路の急カーブにさしかかったときです。
みな体を右に倒してコーナーを曲がります。Aも右側を倒し始めました。どんどん倒します。しかし、軽く倒せばいいはずなのに、Aはぎりぎりまで倒していくのです。
道路に右ひざがかすったかと思うと、Aはそのまますべるように転倒しました。なんてことはない急カーブです。転ぶほどの所ではありません。
ましてやAはグループの中でも一番の運転テクを誇っていました。最初Aが倒しすぎていくときは、わざとふざけているのかと思いました。
しかし現実に、Aは膝を抱えてうずくまっています。皆で駆け寄りましたが、白いものが傷口から見えました。骨です。
「わー救急車呼べ!!」
「A大丈夫かー!!」
皆が叫ぶなか、友人Bが、
「あの銅像の呪いや!」と叫びました。
「こんな時になに言うてんねん!」
「しゃーかて、見ろやAの膝!!骨の見えてる傷の下に、もう少し浅い傷ついてるやん!!1回目の失敗したヘッチンのぶんやん!!」
皆ぞっとしました。しかし、当のAが
「アホなこと言っとらんとはよ病院つれてけ!!」と叫んでので、皆われに帰って病院へ向かいました。
その後、そんなことも忘れていたのですが、ふとその事件を思い出す日が来ました。皆高校を卒業し、それぞれの道を歩みだしていました。
そして意外なことに、Aは極道の道を選びました。俺達の学校でその道を選ぶ奴は決して珍しくはありませんでしたが、心根のやさしいAがその道を選んだのは、正直以外でした。
そして、その噂は回って来たのです。Aが勝手にクスリを持ち出し売上を搾取して、今やばい状態だということを。
Aがその世界に入ってから、近所で会うことも無くなりました。今どこに住んでいるのかも知りません。
あれからもう10数年もたった今、たまに地元に帰って昔の友人と飲むことがあっても、だれもAの消息を知らないと言うのです。
他の友人で同じ世界に入った奴らとは連絡が取れたり出来ているのに、まったく取れなのはAだけです。
この10数年の間、誰一人とっていないのです。その日も地元の奴らと飲んでいました。
酒がまわってきたころ、あのときのメンバーだったBがぽつぽつとあの日の話をし始めました。
俺はそれを止めました。Bの言いたいことは分かっていたからです。あの日Aは最後にやけくそになって、銅像の乗っているコンクリートの台に抱きつきました。
もしそれがAの身に返ってきて、今もコンクリートを抱いていたら・・・
そう思うと、たまらない気持ちになります。

4~5年ほど前に、取引先の人から聞いた話。

Posted on 9月 21, 2016

4~5年ほど前に、取引先の人から聞いた話。
その人が言うに、もうだいぶ前の出来事とのことだから、少なくとも10年以上前のことと思われる。

インドネシアにA氏(話してくれた人)、B氏、C氏の3人で仕事に行った。
仕事といっても、半分は遊びを兼ねたような旅行だったらしい。
そんなわけなので、仕事が終わってから10日近い暇ができ、最初の2~3日はのんびりと観光を
楽しんでいた。3人とも現地は初めてではないので、なんとなく退屈さを感じていたところ、
B氏が「ラフレシアを見てみないか?」と言い出した。

ジャングルに入るには、やはりガイドが要る。
C氏が伝をたどってガイドをさがしたところ、幸いにも引き受けてくれる人が見つかった。
翌日、3人はガイドのいる町へ向かった。そしてガイドと落ち合い、装備を調達すると、その町の
安ホテルで1泊した翌早朝、ガイドを含めた4人はジャングルへと分け入った。

念のためにラフレシアについて書いておくと、巨大な寄生花であるこの植物は、数が少ない上に
開花する時間も僅かで、なかなかお目にかかることは困難である。
ガイドにも「期待はしないほうがいい」と予め念を押された。
まずは蕾を探し出し、その蕾が開花するまで待って花を見るというのが普通だが、日帰りで
何日かジャングルに分け入っても、まず無理だろうとのことだ。
それでも、偶にはジャングル探検も悪くない、何かの話の種になるだろう。
3人はそんな気分であったということだ。

1日目。何の成果もなく終わった。A氏はジャングルに分け入るということがこんなにも大変
だとは思わなかったという。何と言っても蒸し暑く体力の消耗が酷い。おまけに害になる生き物
にも常に注意を払わなければならない。
おそらく、他の2人も同じ気持ちであったろう。

2日目。昨日とは方向を変えたが、これまた成果無し。疲労困憊でホテルに帰る。
もう、いい加減嫌にはなっていたが、せっかく来たのだからと、明日もう一日がんばってみる
ことにした。

そして3日目。
当然、1日目、2日目とは方向を変えて分け入る。
しかし、やはりというか、蕾さえ発見できぬまま時間は過ぎてゆく。
幾分早い時間だが、かなり疲れもあって、諦めて戻ろうということになった。
ガイドにその旨を告げると、4人は道を引き返した。

2時間半ほど歩いたころ、列の最後尾にいたB氏が声をあげた。
B氏が指差すほうを見ると、遠くに何やら赤茶けた塊が見えた。「あれ、ラフレシアじゃないのか?」

ガイドは目を細めるようにして見ていたが、突然、顔を引きつらせた。
「急ごう!黙って付いてきなさい!」
ガイドは小走りに進み始めた。なおもそれを気にして足の進まない3人に振り向きざま言った。
「命が欲しいのなら、急ぎなさい!」
只ならぬガイドの雰囲気に、3人は慌ててガイドの後を追った。

しばらくすると、生臭い臭気が漂ってきた。
ふと振り返ったA氏の目には、赤茶けた物体がさっきより確実に近いところにあるのが映った。

動いているのか?あれは!

この臭いがあの物体から発せられているとしたら、あれはラフレシアではない。
実際に臭いを嗅いだことはないが、ラフレシアは肉の腐ったような臭いのはず。なのに今漂っている
のは生臭さである。A氏はあれがラフレシアではないどころか、何か得体の知れない「嫌なもの」
であることを確信した。
自然に足が速まる。

ガイドはもちろん、B氏、C氏もそれに感づいたようで、自然と一行の足は速くなった。
生臭い臭気は、徐々に強くなっている気がした。
後ろを振り返ってみようと思うが、恐怖でそれもできない。後に続くB氏、C氏の2人もA氏を追い抜く
勢いでぴったり付いてくる。

普通の道ではないから、全力疾走というわけにはいかないが、可能な限り速く走った。
ようやく、自動車の通れる道が見えてきた。
ふと振り返ると、それはもう10メートルに満たない距離にいた。
その距離で分かったのだが、それは大きさは2メートル近く、直径70~80センチもある寸詰まりで
巨大なヒルのような感じであった。

道に出ると、ガイドが足を止め荒くなった呼吸を整えている。
3人も立ち止まった。
「もう大丈夫だと思います」ガイドが息を切らせながら言った。
A氏は安堵のあまり、その場に座り込んだ。他の2人も真っ赤な顔をしてしゃがみこんだ。

落ち着いてみると、もうあの臭いはしない。ジャングルの中を見たが、木々が日光を遮っている
せいで、様子は分からない。
「あれは、何なのか?」
ガイドに尋ねたが、首を振っただけで何も答えてはくれなかった。

結局、ホテルに着いても「あのことは忘れてください。私も詳しくは知らないし、忘れたほうが
いいですよ」と、あれが何かは教えてもらえなかった。
後日、C氏が仕事でインドネシアに行ったとき、かなり方々でこの件を聞きまわったようで、
いくらかの情報を得ることができた。

それは「人を喰うもの」で、人をみつけると執拗に追いかけ、人が疲れて動けなくなったとき
襲い掛かってくるという。太陽の光が好きではなく、あのとき、もし早めに切り上げていなかったら、
ジャングルを抜け出しても追ってきて、逃げ切れなかったかもしれなかった。
それを見たら、現地で言うお祓いを受けなければならない。お祓いを受けなければ、それは追いかけ
た人間を忘れず、執拗に狙ってくる。3人はお祓いはしなかったが、すぐに日本に帰ったので難を
逃れたのではないか。
そして、その名前は分からない、というよりも口にしない、ということであった。

あまりに多くの記憶が失われている中で、この17年間、わずかに残った記憶を頼りに残し続けてきたメモを読みながら書いた

Posted on 9月 20, 2016

これは17年前の高校3年の冬の出来事です。あまりに多くの記憶が失われている中で、この17年間、わずかに残った記憶を頼りに残し続けてきたメモを読みながら書いたので、細かい部分や会話などは勝手に補足や修正をしていますが、できるだけ誇張はせずに書いていきます。
私の住んでいた故郷はすごく田舎でした。思い出す限り、たんぼや山に囲まれた地域で、遊ぶ場所といえば、原つきバイクを1時間ほど飛ばして市街に出て、カラオケくらいしかなかったように思います。
そんな片田舎の地域に1991年突如、某新興宗教施設が建設されたのです。建設予定計画の段階で地元住民の猛反発が起こり、私の親もたびたび反対集会に出席していたような気がします。
市長や県知事に嘆願書を提出したり、地元メディアに訴えかけようとしたらしいのですが、宗教団体側が「ある条件」を提示し、建設が強行されたそうです。
条件については地元でも様々な憶測や噂が飛び交いましたが、おそらく過疎化が進む市に多額の寄付金を寄与する事で、自治体が住民の声を見て見ぬふりをした、という説が濃厚でした。
宗教施設は私たちが住んでいる地域の端に建てられましたが、その敷地面積は、東京ドームに換算すると2~3個ぶん程度の広さだったと思います。
過疎化が進む片田舎の土地は安かったのでしょう。高校2年の秋頃に施設が完成し、親や学校の担任からは「あそこには近づくな」「あそこの信者には関わるな」と言われていました。
私たちはクラスの同級生8人くらいで見に行ったのですが、周りがすべて高い壁で囲われ、正面には巨大な門があり、門の両端の上の部分に、恐ろしい顔をした般若みたいなものが彫られていました。
それを見た同級生たちは、「やばい!悪魔教じゃ悪魔教じゃ」と楽しそうに騒いでいましたが、そういう経緯から、学校ではあの宗教を、『悪魔教』や『般若団体』などと、わけのわからないアダ名で呼ぶようになりました。
たまにヒマな時などは、同級生ら数人で好奇心と興味と暇潰しに、施設周辺を自転車でグルグルしていましたが、不思議な事に、信者や関係者を見た事は一度もありませんでした。
あまりに人の気配がなく、特に問題も起きなかったので、しだいに皆の関心も薄れていきました。
高校3年になり、宗教施設の事は話題にもならなくなっていたのですが、ある日、同級生のAが「あそこに肝だめしに行かんか」と言いはじめました。
Aが言うには、「親から聞いたけど、悪魔教の建物に可愛い女が出入りしとるらしい。毎日店に買い物に来とるらしいで」
Aの実家は、地域内で唯一そこそこ大きいスーパーを経営していました。Aの両親は、毎日2万円~3万円ぶんも買い物をしていく『悪魔教』に、すっかり感謝しているようでした。
Aは「俺の親は、あそこの信者はおとなしくて良い人ばかりって言いよったよ。怖くないし、行ってみようや」。
私やその他の同級生も、遊ぶ場所がなく毎日退屈していましたので、「じゃあ行くか!」という事になり、肝だめしが決定しました。
メンバーは、私とAとBとCとD(同じクラスの5人)と、後輩のEとFの、全員男の7人になりました。
7人もいれば怖くないでしょう。皆も軽い気持ちで行く雰囲気でした。待ち合わせは施設にほど近い、廃郵便局の前になりました。
私が到着すると、ABCとEは来ていたのですが、DとFが30分近く待っても来なかったので、5人で行く事になりました。
施設の近くに自転車を停車させ、徒歩で施設の門へ。「うわ~夜中はやっぱ怖いわ」や、「懐中電灯をもう一つ持ってくりゃ良かったね」などと話していました。
巨大な門の前まで来ると、門からかなり離れた敷地内の建物の一ヶ所に電気がついていました。
「うわぁ信者まだ起きとんじゃね」「悪魔呼んだりしとんかね(笑)」などと軽口を叩いていましたが、Cが「これ、中に入れんじゃん」と言いました。
するとAが、「俺が知っとるよ。横を曲がったとこに小さい門があってそっから入れる」と言いました。
「A、なんで早く言わんのんや」とか言いながら、壁づたいを歩き、突き当たりを横に曲がり、少し歩くと壁に小さな扉がありました。Aが手で押すと、向こう側に開きました。
人ひとりようやく通れる扉を、5人で順番に通って中に侵入しました。その後は懐中電灯をつけたり消したりしながら、更地の敷地内をグルグルしていました。
「なんもないじゃん」「建物に近づいたらさすがにヤバイよの」など、小さな声で雑談していたのですが、あまりにも何もなくつまらないので、施設に近付いてみる事にしたんです。
敷地内は正面の門からは長々とした100メートルくらいの完全な更地で、その先に大きな施設が三棟並んでいました。よく覚えていませんが、とても奇妙な外観をしたデザインの建物でした。
施設周辺をコソコソ歩いていると、施設と施設の間に灯りのついたキレイな公衆トイレの建物がぽつんとあり、トイレがある場所一帯は白いキレイなコンクリートで舗装されていて、ベンチまでありました。
Aが「ちょっと休憩しようや」と言い出し、周りの同級生らは「はぁ?見つかったらさすがにヤバイだろ」「さっさと一周して帰ろうや」と言いました。
私も、「見つかったら警察呼ばれるかもしれんし、卒業まであと少しじゃし、問題起こしたらヤバイ、はよう帰ろうや」と言いました。
しかし、Aはベンチに座ると煙草を吸い始めました。「じゃ一服だけして帰るか」という事で、全員でその場に座って煙草を吸いました。
すると、Aが「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」と、その公衆トイレの中に入っていきました。
BやCは、「アイツ勝手に入った建物のトイレでよくションベンなんか出せるなぁ」「ウ○コなら悪魔に呪われるんじゃないか」
とか冗談を言いながら煙草を吸っていたんですが、しばらくするとAが、トイレの中から「お~い。ちょっと来て。面白いもんがあるよ」と小さな声で言いました。
ゾロゾロと行ってみると、Aは「ほら、ここなんだと思う?」と便所の個室を指さしました。Bが「トイレじゃん」と言うと、「ドア開けてみてや」と言い、Bが「なんや」と言いながら扉を開けました。
扉を開けてみると、なぜか中には地下に降りる階段がありました。Aは「おかしいじゃろ。便器便器と並んで、ここだけ階段なんよ」と言いました。
いよいよこの状況がおかしな事に気づきました。第一、Aの言動がずっと不可解でした。
Aが急に肝だめしを提案した事、横の扉の位置を把握していた事、トイレの扉をわざわざ開いた事などです。
私はAに、「お前まさかココでウ○コするつもりだったん?」と聞きました。Aは「いや、うん、そうじゃ」と曖昧に答えた後、「ちょっと降りてみんか?」と皆に聞き始めました。
私は当然断りました。「お前おかしな事言うなや。はよ帰ろう。ここでグズグズしよったら見つかるじゃろ」と言うと、「はは~お前怖いんじゃろ?ちょっと降りるだけなのに怖いんじゃろ」と馬鹿にした感じで言い出しました。
私はこれはAの挑発だと思いました。下に誘導しようとしているとしか思えなかったのです。Bも「ワシもいかんわ。帰ろうで」と言ってくれたのですが、他の二人は「なんか面白そう。ちょっとだけ降りようか」みたいな感じでAに同調したのです。
Aは「お前らは勇気あるの~」とか言いながら、私やBを更に挑発していましたが、Bは「ワシ行かんで。勝手に行けや」と吐き捨てるように言いました。
Aは「ならまず3人で降りるわ。お前らはとりあえずココで待っといてや」と言いました。そして3人は下へと降りて行ったのです。
私とBの二人はトイレの外には出ず、中で待っていました。トイレの周辺は施設に挟まれた形で、窓も多数あったため、どこの窓から見つかるか分からないと思い、トイレ内で待機していました。
Bは「おい、Aってなんか変じゃないか?」と聞いてきました。私は「今日のAはおかしい。なんか最初っから俺らをココに連れてきたみたいな感じがする」と答えると、Bも「ワシもそう思いよった」と言いました。
その後はBと一緒に、今夜の事や見つかってしまった時の対処法などを話していました。5分近く経った頃、「ちょっと遅くないか?!」と私もBもイライラし始めました。
Bは「もう二人で帰るか」と言い出したのですが、二つあった懐中電灯のうち、二つともAたちが持って降りてしまったので、暗闇の中あの小さな横の扉を発見するのは時間がかかると判断し、しぶしぶ待っていました。
すると、遠くのほうから足音が聞こえてきたんです。ザッザッザッという、複数の足音が遠くから聞こえてきました。
私もBも一瞬で緊張しました。
私たちは小声で、「ヤバイ…人がきた。マズイで…」と囁きあいました。場が張りつめた雰囲気に変わりました。
足音は遠くからでしたが、どの方角からの足音か分からなかったですし、いま外に出ても私たちは施設内の方向や構造が分からないので、見つかってしまう可能性がありました。
Bが「ヤバイ…近づいて来とるで…どうする?」と、かなり慌てた感じで言っていました。
私も内心は心臓がバクバクしながら、「コッチに来るとは限らんし、来そうなら隠れよう」と言いました。
しかし、確実に足音は私たちのいるトイレに近づいてきていました。その時、Bがいきなり階段ではない他の大便の個室の扉に手をかけました。
しかし開きません。隣の個室もなぜか開きませんでした。Bは「クソッ!閉まっとる。あ~クソッ」と小さな声で叫びました。
足音はおそらく15mくらいまで近づいてきています。直感的ですが、私はその時、足音の連中は間違いなくトイレに来ると確信していました。
Bもきっと同じ予感がしていたのだと思います。私もBもジッと立ち尽したままでした。Bは「…仕方ないわ。降りよう」と言い出しました。
私は「えっマジで…?」と返事をしました。あの得体の知れない階段を降りるのはすごく嫌でしたが、トイレ内にはもはや隠れる場所もなく、走り出したところで、暗闇の中でしかも場所がよく分からないので、捕まるだろうと思いました。
深夜の宗教施設という特殊な状況下で、判断力も鈍っていたのかもしれません。足音がもうすぐトイレ付近に差しかかる中、私とBは個室の扉を開き、足音を忍ばせながら下への階段を降りました。
階段はコンクリート造りの階段で、長い階段なのかと思っていましたが、意外にも10段くらいで下に着きました。真っ暗闇なので何も見えないのですが、前を歩いていたBが、降りた突き当たりの目の前にあったのだろう扉を開きました。
中には部屋がありました。
部屋の天井にはオレンジ色の豆電球がいくつかぶら下がり、部屋全体は淡いオレンジ色に包まれていました。
私とBはその部屋に入ると、扉をそっと静かに閉めました。部屋を見渡すと、15畳くらい(よく覚えていません)の何もないコンクリート造りの部屋で、真ん中には大きく円状のものがぶら下がっていました。
説明しにくいですが、巨大な鉄製のフラフープみたいなものが縦にぶら下がっている感じです。
そのフラフープは、部屋の両隅の壁に付くくらい巨大なものでした。
私とBはそんなのを気にせずに、扉の前で硬直していましたが、私が「Aたちは?おらんじゃん…」と小さな声で言うと、Bは「わからん、わからん…」と、ひきつった表情で言っていました。
そして、私たちが聞いていた足音が、予感通りトイレの中に入ってきたのが分かりました。真上から足音がコンクリートを伝って響いてきました。
その足音は3人~4人くらい。私たちはジッと動けないまま、扉の前で立ち尽していました。なにやらブツブツ話し声が聞こえてきましたが、内容まで聞きとれません。
話し合うような声に聞こえましたし、それぞれがなにかをブツブツ呟いているようにも聞こえました。
Bは下をうつむいたまま目を閉じていました。どのくらい時間が経ったのか分かりません。私はなにか楽しい事を思い出そうとして、当時流行っていたお笑い番組『爆SHOW☆プレステージ』を必死に思い出していました。
いつのまにかトイレ内のブツブツ呟く声は、3~4人から10人くらいに増えている事に気づきました。
上にいる連中は、私たちがココに隠れている事を知っているのではと思いました。怖くてガタガタ震えてきました。ブツブツブツブツと気味の悪い話し声に気が遠くなりそうでした。
突然ブツブツ呟く声が消えると、ガタンッと扉が二つ連続して開く音が聞こえた後、さらにガタンッと音がしました。
そのガタンッはトイレの個室を開く音だとすぐに分かり、鳥肌が立ちました。『他の個室には最初から人が入っていたんじゃないか』
私と同じようにBがその可能性に気づいたのかどうかは分かりませんが、さっきは鍵が閉まっていたのですから、外から開けたのではなく、個室から誰かが出てきたんだと思ったのです。
そして、階段を降りる足音が聞こえてきました。限界でした。階段を降りきるまで15秒とかからないでしょう。私はBの腕をギュッと掴みました。
階段を降りる足音が中間地点くらいになった時、Bは「うわぁぁぁ~」と情けない悲鳴をあげながら私の手を振り払い、部屋の奥に走り出しました。
その時です。Bがあの丸い輪をピョンとジャンプした瞬間、一瞬でBの姿がなくなったのです。私はただただ唖然としました。
フラフープ状の丸い輪の向こう側に飛び越えるはずなのに、Bが忽然と姿を消してしまった事に、恐怖よりも放心状態になりました。
私は扉から少し離れ、扉とフラフープの間に立っていました。『謝ろう!』と思いました。『すみません。勝手に入ってしまいました。本当にすみません』そう言おうと思いました。
扉がゆっくり開きました。開いた扉の隙間から、わざとらしくひょいっと顔だけが現れました。
王冠のようなものをかぶった老人が、顔だけ覗かせこちらを見ていました。満面の笑みでした。
おじいさんかおばあさんかは分かりませんでしたが、長い白髪に王冠をかぶったしわくちゃの老人が、満面の笑みで私を見ていました。
それは見た事もない悪意に満ちた笑顔で、私は一目見て『これはまともな人間ではない』と思いました。
話が通じる相手ではないと思ったのです。その老人の無機質な笑顔に一瞬でも見られたくないと思い、「はうひゃっ!」と情けない悲鳴が喉の奥から勝手に出てきて、私もまたBと同じようにフラフープ状の輪に飛びこみました。
目を開くと病室にいました。頭がボーッとしていました。腕には注射針が刺さり、私は仰向けに寝ていました。
上半身を起きあがらせるのに3分近くかかりました。窓を見ると綺麗な夕焼けでした。部屋には人はおらず、個室の病室でした。
何も考えられずただボーッとしていました。どのくらいの時間ボーッとしていたか分かりません。
しばらくすると、ガチャとドアが開き看護婦さんが現れました。看護婦さんはかなり驚いた表情で目を見開くと、そのままどこかに駆け出しました。
私はそれでもボーッとしていました。その後は担当医や他の医師たち数人が来て、私に何かを話しかけているようでしたが、私はボーッとしたままだったらしいです。
その後時間が経ち、意識もだんだんと鮮明になってきました。
医師からは、
「さっき○○君の家族呼んだからね。○○君は長い時間寝ていたんだよ。でも心配しなくていい。もう大丈夫だよ」
と、意味不明な事を言われました。
起きてからも時間の感覚がよく分からなかったのですが、やがて母らしき人と若い女の子が、泣きながら病室に入ってきました。
それは母ではありませんでした。それに私の名前は○○でもありません。母を名乗る女性は「よかった…よかった」と泣いて喜んでいました。
若い女の子は私に「お兄ちゃん、おかえり…」と言いながら、泣き崩れてしまいました。しかし、私に妹はいません。3つ離れた大学生の兄ならいましたが、妹などいません。
私は「誰ですか?誰ですか?」と何度も聞きました。医師は「後遺症でしょうが時間が経てば大丈夫だと…」みたいな事を、母らしき女性や妹らしき女の子に励ますように言っていました。
「今夜は母さんずっといるからね」と言われました。私は寝たままいろいろ検査を受け、その際医師に、「僕は○○でもないし、母も違うし妹もいません」と言いました。
しかし医師は「う~ん…記憶にちょっと…う~ん…」と首を傾げていました。「○○君はね、二年近く寝たきりだったんだよ。だから記憶がまだ完全ではないんだと思うよ」と言われました。
そう言われても、私はショックな感情すらありませんでした。現実にいま起きている事が飲み込めなかったので、ショックを受ける事さえできなかったのです。
医師は言葉を選びながら、私を必死に励ましていました。母らしき人は、記憶喪失にショックを受けて号泣していました。
私は「トイレに行く」とトイレに行きました。立ち上がる際に足が異常に重く、なかなか立ち上がれずにいると、医師や看護婦や妹らしき人が手伝ってくれました。
トイレに行くと、初めてあの夜の事を思い出しました。不思議ですが、目覚めてからの数時間、一度もあの肝だめしの事は思い出さずにいました。
トイレがすごく怖かったのですが、肩をかしてくれた医師や付いてきた母や妹がいたので中に入りました。
用を足したあと、鏡を見て悲鳴をあげました。顔が私ではありませんでした。まったくの別人でした。
覚えていないのですが、その時私は激しいパニックを起こしたらしく、大変だったらしいです。その後は一ヶ月近く入院しました。
私は両親と名乗る男女や、妹を名乗る女の子や、見舞いに来た自称友達や、自称担任の先生だったという男性らに、「僕は○○じゃないし、あなたを知らない」と言い続けました。
AやBの事や、自分の過去や記憶を覚えている範囲で話し続けましたが、すべて記憶障害、記憶喪失で片付けられました。
Aなど存在しない、Bもいない、そんな人間は存在しないと説得されました。しかし、みんな私にとても優しく接してくれました。
医師や周りの話だと、私は学校帰りに自転車のそばで倒れているところを通行人に発見され、
そのまま病室に担ぎ込まれたそうです。
私に入ってくるこの世界の情報は、どれも聞いた事がないものばかりでした。例えば、「ここは神奈川県だよ」と言われた時は、私は神奈川県など知らないし、そんな県はなかったはずでした。
通貨単位も円など聞いた事もない。東京など知らない。日本など知らない…という感じです。
そのつど医師からは、「じゃあ、なんだったの?」と聞かれるのですが、どうしても思い出せないのです。
Aの名前も思い出せず、「同級生の友達」と何度も説明しましたが、周りからは「そんな子はいないよ」と言われました。
あの施設に入り、あのフラフープに入った話を医師に何度も必死に説明しましたが、「それは眠っていた時の夢なんだよ」という感じで流され続けました。
しかし、恐ろしい事に私自身、
『自分は記憶喪失なんだ。前の人生や世界は全部寝ていた時の夢だったんだ』と真剣に思い始めていたのです。
『記憶喪失な上に、別人格・別世界の記憶が上書きされている』と信じはじめていたのです。
どちらにせよ私には、別人としての人生を生きていく事しか選択肢はありませんでした。退院後に父や母や妹に連れられ自宅に戻りました。
「思い出せない?」と両親から聞かれましたが、それは初めて見る家に初めて見る街並みでした。
私はカウンセリングに通いながら、必死にこの新しい人生に順応しようと思いました。私に入ってくる単語や情報には、違和感のあるものとないものに分かれました。
都道府県名や国名はどれも初めて聞いたものばかりですし、昔の歴史や歴史上の人物も初耳でしたが、大部分の日常単語については違和感はありませんでした。
テレビや新聞、椅子やリモコンなどの日常会話はまったく違和感ありません。
最初は家族に馴染めず、敬語で話したり、パンツや下着を洗われるのが嫌で自分で洗濯などしていましたが、不思議な事に本物の家族なんだと思えるようになり、前の人生は前世か夢だと思うようになりました。
そう思えてくると、前の人生での記憶が少しずつ失われていきました。唯一鮮明に覚えていた両親の顔や兄の顔や友人の顔や田舎の街並みも、思い出すのに時間がかかるようになりました。
しかし、あの最後の一夜、宗教施設での記憶だけはハッキリ覚えていました。特にあの満面の笑みの老人の顔は忘れられませんでした。
新しい生活にも慣れ、カウンセリングの回数も減り、半年後には高校にも復帰しました。二十歳で高校3年生からやり直したのですが、友人もでき、楽しさを感じていました。
テレビ番組も観た事がない番組ばかりでとても新鮮でした。神奈川県の都市でしたので、都会の生活もすごく楽しかったのを覚えています。
しかし、高校復帰から4ヶ月ほど経った後に、意外な形であの世界とこの世界とをつなぐ共通点が現れました。
ちょうど夏休みに、私は宿題の課題のため、本屋で本を探していました。すると、並べてある本の中で『○○○○』という文字が目に入りました。
宗教関連本でした。『○○○○』というのは紛れもなく、私が最後の夜に侵入した新興宗教の名前でした。私は驚愕しました。
そして本を手にとり、必死に読みました。
『○○○○』は、この世界ではかなり巨大な宗教団体というのが分かりました。
私のいた世界では、名前も聞いた事がない無名の新興宗教団体だったのに、こちらでは世界的な宗教団体だったのです。
それから私はその宗教の関連本を何冊も買い読みあさりましたが、それは意味がない行為でした。
読んだからといって何も変わりません。戻れるわけでもなければ、誰かに私の過去を証明できるような事実でもありません。
周りに話したところで、
「それは意識がなかった時に○○○○が夢に出てきただけだ」と言われるだろうと思ったからです。
それに、親切にしてくれる新しい家族や友人たちに、迷惑や心配をかけたくなかったのです。
せっかく高校にも復学し、過去の話をしなくなった私に対して、安心感を感じてくれている周囲に対しての申し訳なさ、また、カウンセリングに通う苦痛を考え、私は見て見ぬふりをする事にし、普通に人生を送ってきました。
17年が経ち、私も今は都内で働くごく普通のサラリーマンです。ではなぜ今さらこんな事を書き記そうと思ったかと言うと、先月、私の自宅に封書の手紙が届きました。
匿名で書かれた手紙の内容は、
『突然で申し訳ありません。私はあなたをよく知っています。あなたも私をよく知っているはずです。あなたを見つけるのにとても長い時間と手間がかかりました。あなたは○○という名前ですが、覚えていますか?また必ず手紙を送ります。この手紙の内容は誰にも言わないでください。あなたの婚約者にも。よろしくお願いします。』
という内容でした。
○○○と呼ばれても、私にはもはや全くピンときませんが、以前そんな名前だったような気もします。
手紙が送られてきた事に対しては不思議と恐怖も期待もなく、どちらかというと人ごとのように感じました。
そして、その手紙の相手は先週二通目を送ってきました。
要約すると、
『あなたが知っている私の名前は○○です。あなたは覚えていませんよね?どうやらここにはあなたと私しか来ていないようです。』
と書かれ、
『今月25日の19時に○○駅前の○○にいるので、必ず来てください。あなたに早急に伝えなければならない事があります。必ず一人で来てください』
と書かれていました。
私には○○の名前が誰なのか一切覚えていませんが、会いに行くつもりです。行かなければならない気がしています。
誰がそこに立っていたとしても思い出せないと思いますが、あの夜のメンバーなら話せば誰なのか分かります。
できればBであってほしいです。
なにが起こるか分からないので、こういう形で書き残そうと思いました。 同じような文面を、婚約者と唯一の身内になった妹には残しておこうと思います。
長々と読んで頂いてありがとうございました。

男はアンティーク好きな彼女とドライブがてら、骨董店やリサイクルショップを回る事になった

Posted on 9月 19, 2016

先日、男はアンティーク好きな彼女とドライブがてら、骨董店やリサイクルショップを回る事になった。
男もレゲエや古着など好きで、掘り出し物のファミコンソフトや古着などを 集めていた。
買うものは違えども、そのような物が売ってる店は同じなので、楽しく店を巡っていた。
お互い掘り出し物も数点買う事ができ、テンション上がったまま 車を走らせていると、一軒のボロッちい店が目に付いた。
「うほっ!意外とこんな寂れた店に、オバケの○太郎ゴールドバージョンが眠ってたりすんだよな」
浮かれる彼氏を冷めた目で見る彼女と共に、男は店に入った。
コンビニ程度の広さの、チンケな店だった。主に古本が多く、家具や古着の類は あまり置いていない様だった。
ファミコンソフトなど、「究極ハリキリ○タジアム」が 嫌がらせのように1本だけ埃を被って棚に置いてあるだけだった。
もう出ようか、と言いかけた時、
「あっ」
と彼女が驚嘆の声を上げた。
男が駆け寄ると、ぬいぐるみや置物などが詰め込まれたバスケットケースの前で彼女が立っていた。
「何か掘り出し物あった?」
「これ、凄い」
そう言うと彼女は、バスケットケースの1番底に押し込まれる様にあった正20面体の置物を、ぬいぐるみや他の置物を掻き分けて手に取った。
今思えば、なぜバスケットケースの1番底にあって外からは見えないはずの物が彼女に見えたのか、不思議な出来事はここから既に始まっていたのかもしれない。
「何これ?プレミアもん?」
「いや、見たことないけど…この置物買おうかな」
まぁ、確かに何とも言えない落ち着いた色合いのこの置物、オブジェクトとしては悪くないかもしれない。男は、安かったら買っちゃえば、と言った。
レジにその正20面体を持って行く。しょぼくれたジイさんが古本を読みながら座っていた。
「すいません、これいくらですか?」
その時、男は見逃さなかった。ジイさんが古本から目線を上げ、正20面体を見た時の表情を。
驚愕、としか表現出来ないような表情を一瞬顔に浮かべ、すぐさま普通のジイさんの表情になった。
「あっ、あぁ…これね…えーっと、いくらだったかな。ちょ、ちょっと待っててくれる?」
そう言うとジイさんは、奥の部屋(おそらく自宅兼)に入っていった。奥さんらしき老女と何か言い争っているのが断片的に聞こえた。
やがて、ジイさんが1枚の黄ばんだ紙切れを持ってきた。
「それはね、いわゆる玩具の1つでね、リンフォンって名前で。この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」
ジイさんがそう言って、黄ばんだ汚らしい紙を広げた。随分と古いものらしい。紙には例の正20面体の絵に「RINFONE(リンフォン)」と書かれており、それが「熊」→「鷹」→「魚」に変形する経緯が絵で描かれていた。
わけの分からない言語も添えてあった。ジイさんが言うにはラテン語と英語で書かれているらしい。
「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るんだよ。まず、リンフォンを両手で包み込み、おにぎりを握るように撫で回してごらん」
彼女は言われるがままに、リンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。
すると、「カチッ」と言う音がして、正20面体の面の1部が隆起したのだ。
「わっ、すご~い」
「その出っ張った物を回して見たり、もっと上に引き上げたりしてごらん」
ジイさんに言われるとおりに彼女がすると、今度は別の1面が陥没した。
「すご~い!パズルみたいなもんですね!あなたもやってみたら」
この仕組みを言葉で説明するのは凄く難しいのだが、「トラン○フォーマー」と言う玩具をご存知だろうか?
カセットテープがロボットに変形したり、拳銃やトラックがロボットに…と言う昔流行った玩具だ。
このリンフォンも、正20面体のどこかを押したり回したりすると、熊や鷹、魚などの色々な動物に変形する、と想像してもらいたい。
もはや、彼女はリンフォンに興味深々だった。
男でさえ凄い玩具だと思った。
「あの…それでおいくらなんでしょうか?」
彼女がおそるおそる聞くと、
「それねぇ、結構古いものなんだよね…でも、私らも置いてある事すら忘れてた物だし…よし、特別に1万でどうだろう?ネットなんかに出したら好きな人は数十万でも買うと思うんだけど」
そこは値切り上手の彼女の事だ。
結局は6500円にまでまけてもらい、ホクホク顔で店を出た。次の日は月曜日だったので、一緒にレストランで晩飯を食べ終わったら、お互いすぐ帰宅した。
月曜日。
男が仕事が終わって家に帰り着いたら、彼女から電話があった。
「ねえ、あれ凄いよ、リンフォン。ほんとパズルって感じで、動物の形になってくの。仕事中もそればっかり頭にあって、手につかない感じで。マジで下手なTVゲームより面白い」
と一方的に興奮しながら彼女は喋っていた。電話を切った後、写メールが来た。リンフォンを握っている彼女の両手が移り、リンフォンから突き出ている、熊の頭部のような物と足が2本見えた。
男は、良く出来てるなぁと感心し、その様な感想をメールで送り、やがてその日は寝た。
火曜日。
仕事の帰り道を車で移動していると、彼女からメールが。
「マジで面白い。昨日徹夜でリンフォンいじってたら、とうとう熊が出来た。見にきてよ」
と言う風な内容だった。
男は苦笑しながらも、車の進路を彼女の家へと向けた。
「なぁ、徹夜したって言ってたけど、仕事には行ったの?」
着くなり男がそう聞くと、
「行った行った。でも、おかげでコーヒー飲み過ぎて気持ち悪くなったけど」
と彼女が答えた。
テーブルの上には、4つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンがあった。
「おぉっ、マジ凄くないこれ?仕組みはどうやって出来てんだろ」
「凄いでしょう?ほんとハマるこれ。次はこの熊から鷹になるはずなんだよね。早速やろうかなと思って」
「おいおい、流石に今日は徹夜とかするなよ。明日でいいじゃん」
「それもそうだね」
と彼女は言い、簡単な手料理を2人で食べて、1回SEXしてその日は帰った。
ちなみに、言い忘れたが、リンフォンは大体ソフトボールくらいの大きさだ。
水曜日。
通勤帰りに、今度は男からメールした。
「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ~だこ~だ…」
すると、
「昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って続きが楽しみ」
と返事が返ってきた。
そして夜の11時くらいだったか。俺がP○2に夢中になっていると、写メールが来た。
「鷹が出来たよ~!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」
写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが写してあった。
素人の男から見ても精巧な造りだ。今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。もちろん玩具だし、ある程度は凸凹しているのだが。
それでも良く出来ていた。
「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな~」
と返信し、やがて眠った。
木曜の夜。
男が風呂を上がると、携帯が鳴った。彼女だ。
「さっき電話した?」
「いいや。どうした?」
「5分ほど前から、30秒間隔くらいで着信くるの。通話押しても、何か街の雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れるの。着信見たら、普通(番号表示される)か(非通知)か(公衆)とか出るよね? でもその着信見たら(彼方(かなた))って出るの。こんなの登録もしてないのに。気持ち悪くて」
「そうか…そっち行ったほうがいいか?」
「いや、今日は電源切って寝る」
「そっか、ま、何かの混線じゃない?あぁ、ところでリンフォンどうなった?魚は」
「あぁ、あれもうすぐ出来るよ、終わったらあなたにも貸してあげようか」
「うん、楽しみにしてるよ」
金曜日。
奇妙な電話の事も気になった男は、彼女に電話して、家に行く事になった。リンフォンはほぼ魚の形をしており、あとは背びれや尾びれを付け足すと、完成という風に見えた。
「昼にまた変な電話があったって?」
「うん。昼休みにパン食べてたら携帯がなって、今度は普通に(非通知)だったんで出たの。それで通話押してみると、(出して)って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」
「やっぱ混線かイタズラかなぁ?明日ド○モ一緒に行ってみる??」
「そうだね、そうしようか」
その後、リンフォンってほんと凄い玩具だよな、って話をしながら魚を完成させるために色々いじくってたが、なかなか尾びれと背びれの出し方が分からない。
やっぱり最後の最後だから難しくしてんのかなぁ、とか言い合いながら、四苦八苦していた。やがて眠くなってきたので、次の日が土曜だし、着替えも持ってきた男は彼女の家に泊まる事にした。
嫌な夢を見た。
暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくる。俺は必死に崖を登って逃げる。後少し、後少しで頂上だ。助かる。頂上に手をかけたその時、女に足を捕まれた。
「 連 れ て っ て よ ぉ ! ! 」
汗だくで目覚めた。まだ午前5時過ぎだった。再び眠れそうになかった男は、ボーっとしながら、彼女が起き出すまで布団に寝転がっていた。
土曜日。
携帯ショップに行ったが大した原因は分からずじまいだった。そして、話の流れで気分転換に「占いでもしてもらおうか」という事になった。
市内でも「当たる」と有名な「猫おばさん」と呼ばれる占いのおばさんがいる。自宅に何匹も猫を飼っており、占いも自宅でするのだ。予約がいるらしく、早速電話すると、運よく翌日の日曜にアポが取れた。その日は適当に買い物などして、外泊した。
日曜日。
昼過ぎに猫おばさんの家についた。
チャイムを押す。
「はい」
「予約した○○ですが」
「開いてます、どうぞ」
玄関を開けると、廊下に猫がいた。男たちを見ると、ギャッと威嚇をし、奥へ逃げていった。廊下を進むと、洋間に猫おばさんがいた。文字通り猫に囲まれている。
男たちが入った瞬間、猫たちが一斉に「ギャーォ!」と親の敵でも見たような声で威嚇し、散り散りに逃げていった。
流石に感じが悪い。
彼女と困ったように顔を見合わせていると、
「すみませんが、帰って下さい」
と猫おばさんが言った。
ちょっとムッとした男は、どういう事か聞くと、
「私が猫をたくさん飼ってるのはね、そういうモノに敏感に反応してるからです。猫たちがね、占って良い人と悪い人を選り分けてくれてるんですよ。こんな反応をしたのは初めてです」
男は何故か閃くものがあって、彼女への妙な電話、男が見た悪夢をおばさんに話した。
すると、
「彼女さんの後ろに…動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」
と渋々おばさんは答えた。
それがどうかしたのか、と聞くと
「お願いですから帰って下さい、それ以上は言いたくもないし見たくもありません」
とそっぽを向いた。
彼女も顔が蒼白になってきている。
男が執拗に食い下がり、
「あれは何なんですか?呪われてるとか、良くアンティークにありがちなヤツですか?」
おばさんが答えるまで、何度も何度も聞き続けた。
するとおばさんは立ち上がり、
「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!! 地獄の門です、捨てなさい!! 帰りなさい!!」
「あのお金は…」
「 い り ま せ ん ! ! 」
この時の絶叫したおばさんの顔が、何より怖かった。
その日彼女の家に帰った男たちは、すぐさまリンフォンと黄ばんだ説明書を新聞紙に包み、ガムテープでぐるぐる巻きにして、ゴミ置き場に投げ捨てた。
やがてゴミは回収され、それ以来これといった怪異は起きていない。数週間後、彼女の家に行った時、アナグラム好きでもある彼女が、紙とペンを持ち、こういい始めた。
「あの、リンフォンってRINFONEの綴りだよね。偶然と言うか、こじ付けかもしれないけど、これを並べ替えるとINFERNO(地獄)とも読めるんだけど…」
「…ハハハ、まさか偶然偶然」
「魚、完成してたら一体どうなってたんだろうね」
「ハハハ…」
男は乾いた笑いしか出来なかった。あれがゴミ処理場で処分されていること、そして2つ目がないことを無意識に祈っていた。

俺は、某所のある古いアパートで一人暮らしをしている

Posted on 9月 19, 2016

俺は、某所のある古いアパートで一人暮らしをしている。 このアパートは二階建てで、各階四号室までの、ごく普通のアパートだ。
ちなみに俺は104号室に住んでいる。 ある日、いつものスーパーに晩メシを買いに行こうと外に出たら、 アパートの前にはパトカーが数台止まっていた。
何だろうと思いながらも、そのままスーパーに足を進めた。 そして、そこでたまたま隣に住んでいるYさんに会った。
そして、Yさんは俺に何とも奇妙な事を聞いてきた。
『お宅の部屋、何ともない?』
『いや、別に今の所は…Yさんの部屋では何かあったのですか?』
俺は聞き返した。するとYさんは重々しい口を開き、しゃべり始めた。
『実は昨日の夜中、201号室の人と101号室の人が、ほぼ同じ時刻に 目玉と首を取られて死んでるんだって。
それで、102号室の人が言ってたんだけど、 夜11時頃に、電話の鳴る音が聞こえたんだって。しばらく経ってその音が消えたと思ったら、 何て言ったか聞こえなかったけど、201号室から、数分後に101号室から、 決まった三文字の言葉が聞こえたんだって。それと同時に意味不明な叫び声が…
それで、102の人がすごいおびえてて、次は自分なんじゃないかって… だから今日はうちに泊めてやる事にしたのさ。若い女性だから、一人じゃやっぱり不謹慎だろうからねぇ。
まあ空手五段のバリバリ主婦のあたしがついてればまず大丈夫だと思うけどね。 けどもし何かあったら助けに来るんだよ!一応隣さんなんだからさ!』
『は、はい…どうも…。』俺がそう言うと103の主婦は買い物を済ませ、部屋に戻っていった。 俺も、晩メシを買い、部屋に戻った。
しかし、いつの間にそんな事件が…俺昨日は早く寝たからな…よし、今日は念のため遅くまで起きてるか。
まあ、おそらく何かの偶然だと思うが…しかし、ほぼ同時に電話が来たといい、三文字の言葉といい…何か不気味だな。
これでYさんたちに何かあったら洒落にならないぞ…そう思いながら晩メシを食べ、それから黙々と雑誌を読んでいた。
…気付けばもう11時か。まあ30分ぐらい布団かぶって待って、何も無かったらそのまま寝るか…
そしてしばらく待って、10分経ってから眠くなってきた。もう良いだろうと思い、眠り に落ちようとした時、ある音によって一瞬で目が覚めた。
『プルルルル』
103からだ。そしてよく耳を澄ますと、斜め隣の203、その隣の202号室からも聞こえてくる。
おそらく102号室も鳴ってるであろう。 こんな事があろうか。同時に4つの部屋の電話が鳴るなんて…すると上の方の電話の音が消えた。
何も知らずに取ったのであろうか(まあ俺もあまり分からないのだが)そして上からかすかに声が聞こえた。
それは確かに三文字だったが、上の方だったため、よく聞き取れなかった。 しかし、それは確かにその声は三文字だった。しかも、何かボソッと呟くような…。
今まで半信半疑だった俺も、いよいよ怖くなってきた。Yさんの言ってた事が、今のところ現実に起きている。
…ところでYさんたちは?まだ電話は鳴っている。警戒して取っていないのか。その方がおそらく正解だ。
『上は死んだな』何故か俺はほぼ確信していた。しかし、まだ102と103はまだ電話が鳴っている。
俺は、二人がいる103号室に行くことにした。急いで靴を履き、外に出た。
まだ電話は鳴っている。お願いだ、取らないでくれ…取らないでくれ…そう思いながら103のドアを開けた。
『その電話を取るな!』
ところがもう遅かった。恐怖に耐えかねた主婦のYさんが、電話を取ってしまったのだ。 すると、Yさんはしばらく受話器に耳を当て、しばらくして、主婦は例の三文字の言葉を放った。
『はたよ』
………何て意味不明な言葉だ…何かかなり意味深いものを感じ、何故かものすごい寒気がしてくる…。
そして、102の若い女性がいつの間にかいなくなっていた。102に戻ったのか?危ない!
102はまだ電話が鳴っている!取ったら…おそらく…!そう思ってた矢先、電話の音が消え、また聞こえた。
『はたよ』
…もう終わりだ。すると、俺の部屋からも電話の音が聞こえてきた。まさか、 このアパート全体に…!?まあいい、そんなの取らないに決まってる!まず女性の所に…!
そう思って102のドアを蹴飛ばした!
…女性は無事だった。電話を取った後、部屋の隅でうずくまっていた。 ひとまずホッとした。しかし、俺は忘れていた。あの主婦は…?
俺は急いで103に向かった。ドアを開けると、…驚いた。 主婦も無事だ。小刻みに震えながらやはり部屋の隅でうずくまっていた。僕は逆に不思議に思った。
何故電話を取った二人が助かったのか…?ただのイタズラだったのか?いや、 それは無い。実際にそれで101と201の人は目玉を取られて首を刈られ殺されている。
………待てよ?101と201の人は電話を取ったのか?…もしかして、取ったから死んだんじゃなくて、『取らなかった』から死んだんじゃ…。
ものすごい寒気がした。まだ俺は電話を取っていない!まだ電話は鳴っている。
『急げ!』
俺はあせりながらも、急いで自分の部屋に戻った。
『プルルルル』
『プルルルル』
『プルルルル』
『プルルルル』
『プルルルル』
よかった、まだ電話は鳴っている!あれを取れば……助かる…助かるんだあ!俺は急いで電話を取った。 だが、それは自分が予想していた三文字とは全く違う言葉だった。
『おそい』
そしてノックの音がした。